あらゆる資源がなくなり、街は廃墟と化している。
あたらしいものは全くつくられず、モードは古着で回っている。
そこではわたしは古着のバイヤーをしており、
それはたいへん特別でかっこよくてシビレること、らしいのだ。
古着市はたいてい、大きな元ホテルの水にまつわる場所で行われる。
ちかごろ古着業界でうわさになっているまぼろしの古着市
(どうやらそこでは、だれも袖を通したことのない新品の服!が流出しているようなのだ)、
その場所をついに突き止める。
*
そこはひどく荒れ果てまくったホテルで、
部屋のすべてに団地式の鉄柱の簡素なベランダを備え、
それらすべてに古い布団がみっちりと詰まって廃棄されている。
色とりどりの布団。
雨風にさらされた捨てられた布団の悲しい雰囲気。
茶色のふわふわのフェイクファーに包まれた
大きな湯たんぽのようなものを抱えエレベーターを探す。
文明はかなりのところまで行ったのだ。
たいていの建物のエレベーターはひとが行きたい階を想起するだけで、そこに連れて行ってくれた。
今はどのエレベーターも動かない。
この湯たんぽのようなものにもその原理が組み込まれているのだが、
基本的にエレベーターの近くでしか使えない。
エレベーターのシステムを利用してしか動かない。
ホテルの裏庭にまわりエレベーターを見つける。
湯たんぽを抱え、上にいくことを強く強く想起する。
わたしはふらふらと浮き上がり、地味に上階を目指す。
なんとかホテルの屋上に行くと、緑のジャージの若者が居て、古着市は地下だという。
ここのホテルには屋上に風呂がない、地下に大浴場があるので、そこでやっていると。
わたしはがっかりしながらホテルの階段をつかい地下に向かう。
バックヤードは暗いけれども思ったよりさびれていなくて、ひとの気配がある。
地下は、風呂が通常営業されているかのような明るさと雰囲気。
ヒップホップ風のおしゃれをした太った男が、
どういう服がほしいのか聞いてくる。
わたしは感激する。また、わたしは仕入れの目的を隠さなくてはならない。
天井の高い脱衣所には古着の詰まったいくつもの高い棚。
風呂場では、モデルによるファッションショーが行われている。
有名なモデルもいる。これはすごい古着市なのだ。
比較的可愛くポップな古着を着こなしたモデルたちが(なにしろ今の時代はろくな古着がない)
プラカードを持ち、新しいスタイル、そしてそのスタイルはどの棚に行けば手に入るのかを教えてくれる。
半楕円の浴場。ブルーのタイル。
わたしたちは座ってモデルを見下ろす。
わたしたちはみたこともないような古着に出会える予感に胸をワクワクさせる。