十年くらい前から、台風が来ると空に大きなまぼろしが映るようになったらしい。
わたしは大学生で、当時住んでた寮に住んでいて、
友だちがまぼろしをみにいこうと迎えにくる。
もうみんな見晴らしのよいところにみにいってる、
きょうは台風のわりに空がはれてて雨も少ないから、すごくいいよと。
はやる気持ち。リュックにウインドブレイカーやお菓子を詰め友だちと外に出る。
寮は2階建てで小さなアパートのような作りだ。
2階にあるわたしの部屋を出て、外付けの階段をおりるところで、
もう空に大きく浮かんだまぼろしがみえる。
おおきなこどもがいつもの空に浮かんでる。
小雨、強風。わあっと思う。
はやくもっと見晴らしのよいところに行きたいと思う。
風でまぼろしがもやもやうごき、目の部分がゆっくり落ち黒々と穴があく。
まぼろしが消える時は、からだのやわらかい部分から消えるという。
こどものまぼろしがきえかけると、
右から自転車のようなものにのった3人のおおきなこどもたちが現れた。
ともだちは、まぼろしは誰か特定の人の夢や思いをうつしたり、
みんなの思いをうつしたりするという。
わたしたちは海岸にむかう。